退屈な講義の代わりに、先週私のUCバークレーの学生たちは、かなりいい思いをした。TechCrunchファウンダー、Mike Arringtonとのライブ討論だ。以前私はMikeのことを、Oprah WinfreyとHowerd Sternを足して2で割ったような人物、と評したことがある。だからちょっとした論争を覚悟していた。しかし結果的に彼は大きな火を付け、私は教育とキャリアについて学生たちから質問の集中砲火を欲びることになった。質問はバークレーからだけではなかった。議論の様子がTechCrunchに掲載されると、デューク大学の学生たちから、9月22日の起業家精神シンポジウムのキーノート講演で私にこの話をしてほしいと頼まれた。さらには、他の大学の学生たち、遠くはインド、シンガポールからも、助言を求める質問が届いた。そこで私は、この火を鎮められることを願って、ここで回答することにした。
先週UCバークレーで行われた著名イノベーター連続講義で、Mikeと私はさまざまなテーマについて議論した。大方の主題については意見が一致したが、教育の重要性については例外だった(あと、ハイテク業界における女性の不足については、日を改めて戦う予定)。MBA取得の重要性について書いたTechCrunchの私の記事を話題に出したところ、Arringtonは、なぜ学位を取る必要があるのか、そもそも大学に行く必要があるのか、と疑問を呈した。彼は、大学から落ちこぼれたハイテクCEOたちの成功を大きく取り上げた ― Zuckerberg、Gates、さらには「Larry [Page]とSergey [Brin] らをはじめとする多くの著名なハイテク起業家たち」だ(Mike注:LarryとSergeyは共に学部の学位を持っており、PhDも取得予定)。バークレーのIkhlaq Sindu教授(私は、Mikeの話が終らないうちに彼が壇上に来て取り押さることを恐れていた)が割って入ったのにもかかわらず、Arringtonは自分が大学から学んだものは大してないこと、学生にとって必要なのはバークレーやハーバードの入学資格を得た証明だけであること、大学を中退することはもはや不名誉ではないこと、よって「この世で最高なのは、ハーバードに1年行って中退すること、なぜなら入学できる頭があったことが誰にでもわかるから」などと語った。
Arringtonは学生たちに向かって、修士学位を取って成功の確率を高めようと考えるような人は起業家ではない、と言った。年長の起業家たちには資金を調達できるチャンスがない(だから勝ち目がない)。成功とはビリオン(10億ドル)規模のビジネスを立ち上げて大金を稼ぐこと ― 良いライフスタイルビジネスを構築して生活費を払って幸せになるだけでは十分ではない。だからみんな、小さいことを考えずに大きな目標を向かって「構え-射て-狙え」で行くべきだ。
Arringtonの論理には問題がある。学生がすごいアイディアを思いついて会社を起こすことはできるかもしれないが、大きくするためには教育的基盤がなければならない。恐らくZuckerbergは、良い時に良い場所に居合わせる幸運を得たのだろうが、彼が企業を成長させる知識を持って生まれてきたわけではない。会社を作るためには、経理、マーケティング、知的財産権、会社法などの知識を理解しておく必要がある。ビジネスの世界に入ってしばらくするまで、君たちは契約交渉のやり方や、人との接し方、従業員の管理や育成、そして顧客に売る方法を知らない。さらに重要なのは、自分が始めたことをやり遂げることの大切さを学ばない学生は、成功できないことだ ― それには忍耐力と決断力が必要だ。そして大学を中退すれば、後にキャリアや仕事の上で助けてもらうのに必要な卒業生ネットワークにも入れない。
残酷な現実は、Zuckerberg一人につき、千人の大学中退失敗組がいることだ。その多くが失敗に落胆し、技術や教育の要求の低い他の分野に移っていく。大学によっては、中退して間もない学生を再入学させるところもあるが、殆どの学生は貯金も友人や親戚からの借金も使い果たして、教育に費やす余裕がない。諦めて大企業に入ろうとしても、大企業は一般に学位のない人間を雇わない ― それは、始めたことをやり遂げる自制心のある社員が欲しいからだ。虹を見るたびに船から飛び込む人ではなく。
もう一つ、Facebookを実際に作った人たち ― 会社の役員や従業員たち ― の経歴を見てみると、彼らは大学中退ではない。彼らは高学歴の持ち主である。Facebook、Microsoft、Apple ― いずれも大学中退者が創立し、いずれも採用の選り好みが最も大きい。彼らこそが学位にこだわっている。
私から学生たちへのアドバイスは、教育は、受けられる間はできるだけ受けよ。最低でも学部、可能なら修士の学位を修了すること。ハーバードやスタンフォードなどのエリート校の学位である必要はない。どんな教育も身になる。このグラフ(成功したハイテク企業652社のファウンダーの経歴を分析した結果に基づく)が示すように、学位取得者が設立した企業の規模と収益には大きな違いがある。しかし、アイビーリーグと平均(全スタートアップ)の差はわずかだ。
卒業したら、現場である程度仕事の経験を積み、起業家へと突進する前に、ビジネスの世界の現実を知ることだ。大企業で何年か働き、企業世界のしくみを学び、人的管理、プロジェクト計画、チームワークの能力を上達させる。そしてスタートアップに入る ― たぶん他の多くのスタートアップと同じく失敗するだろう。しかし、人のお金で失敗して、あらゆる価値ある教訓を学ぶことができる。
Mike Arringtonは話の中で、自分が教育から得たものは殆どないと言った。法律学位でなくMBAを取っていればよかった、とも言った。しかし、Mikeが認識していないと思われるのは、彼が弁護士になるために法律学位が必要だったことだ。弁護士時代彼はハイテク業界とその問題について深い知識を得た ― そこから彼のスタートアップが生まれた。そして、この教育によって彼は、非倫理的企業と対決し、非倫理的行為に疑問を持つための知識を身に付けた ― そのすべてが、世界最先端のテクノロジーブログであるTechCrunchを作るのに役立っている。Mikeが大学中退でもTechCrunchを作れたと思う人がいるだろうか。
われわれの議論の中で、Mikeが冗談に、法律を勉強する代わりに中学生の時にギターを習えばよかった ― 「ロックスターになっていたかもしれない」― と言っていた。Mikeに音楽的才能があるかどうか私には全くわからないが、ギタリストがロックスターになる割合は、コンピューター技術者がCEOになる割合よりずっと小さい。
【編集部より:本稿は、起業家出身の学者、Vivek Wadhwaによる寄稿である。同氏は現在UCバークレー客員教授、ハーバード法科大学院上級研究員、およびデューク大学常任理事を務めている。Twitterアカウントは@vwadhwa、研究成果はwww.wadhwa.comで見ることができる】
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(翻訳:Nob Takahashi)