2010年10月1日金曜日

利益追求よりも、社会貢献を選んだ若き起業家

利益追求よりも、社会貢献を選んだ若き起業家

創業4年で貧困地帯に100万足の靴を寄付

9月28日(火)11時40分配信 JBpress

利益追求よりも、社会貢献を選んだ若き起業家 (1/3)

トムズ・シューズの創業者であり、CGS=最高靴寄贈者でもあるブレイク・マイコスキーさん(写真中央)
トムズ・シューズの創業者であり、CGS=最高靴寄贈者でもあるブレイク・マイコスキーさん(写真中央)
 あなたが靴を買うたびに、靴を買えない子どもに靴を1足届けます。

  カリフォルニア発の靴メーカー「 [ トムズ・シューズ(TOMS Shoes) ]」の靴は、軽くて、履きやすく、キュートなデザイン。色・柄も豊富でお手軽な普段履きとして、サーファーや芸能人に人気だ。でもトムズ・シューズの最大の売りは、デザインでも、お手頃の価格でもなく、「One for One = 1足売った分、1足寄付」をするという独自のビジネスモデルにある。

*** 子どもたちが裸足で歩く姿を見て、靴メーカーを起業 ***

 トムズ・シューズのCEO(最高経営責任者)にして自らを「CSG = Chief Shoe Giver(最高靴寄贈者)」と名乗る創業者のブレイク・マイコスキーさん(34歳)は、大学在学中の19歳の時に宅配集配のクリーニング店を始めたのを皮切りに、その後広告代理店など12年間で5つの会社を起こした若き起業家として注目されていた人物だ。

 マイコスキーさんにとってトムズ・シューズを創業する「種」となった出来事は、2002年に3大ネットワークテレビの1つCBSで放送されていた視聴者参加型の人気リアリティ番組「アメージングレース・シーズン2」に妹と共に出演したことだ。

 「アメージングレース」は、2人1組の参加者が番組から課される試練をクリアしながら世界中を旅して、最も早くゴールしたチームが100万ドルの賞金を獲得できるというもの。マイコスキーさんは残念ながら優勝は逃したものの3位に食い込み、何週間もテレビに登場したことで、「甘いマスクのイケメン起業家」として、ちょっとした有名人になった。

 その後、マイコスキーさんは個人旅行で2006年に番組で訪れたアルゼンチンを再訪。旅の終わりの1週間を、ブエノスアイレス郊外のロス・ピラトナスという小さな村でのボランティア活動に充てた。

 貧しい村には水道すら整備されておらず、子どもたちが毎日2~3マイルの道を歩いて水汲みに出掛けなければならない。しかも、ほとんどの子どもは靴を持っていない。傷ついた足からはバイ菌が入り、痛みをこらえながら水の入った重たい桶を運ぶ姿は痛々しかった。

 マイコスキーさんはその場面を見た瞬間、まるで天命を受けたかのように、「靴を売った分と同じだけの靴を寄付する会社を始めよう」と思いたったのだという。旅を終え米国に戻ると、それまで経営していた会社を売り払い、3人のインターンを雇い、ロサンゼルスの小さなアパートでトムズ・シューズを創業した。

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アルゼンチンの伝統の靴・アルパルガータをベースにしたトムズ・シューズのベーシックライン。前面に切り替えのステッチが入っているのが特徴
アルゼンチンの伝統の靴・アルパルガータをベースにしたトムズ・シューズのベーシックライン。前面に切り替えのステッチが入っているのが特徴
*** 事業の拡大が社会貢献の拡大につながる仕組み ***

 もともと「人生の前半はお金を稼ぎ、後半はそのお金で社会に貢献するような一生を送りたい」と考えていたという。しかし、継続的に社会貢献活動を行うためには、単なるチャリティーではなく、企業としてきっちりと利益を出しながら、売り上げの拡大が活動の拡大につながるような仕組みを作る必要があると考えた。それがトムズのビジネスモデルだ。

 トムズ・シューズの主力商品は、アルゼンチンの農民たちが何百年も愛用している「アルパルガータ」と呼ばれる伝統の靴をベースにしたもの。もともとのアルパルガータはジュート麻の靴底に、甲は粗末なキャンバス地を使った質素なものだが、トムズではラバーソールにポップな色合いの生地を合わせ、欧米のカジュアルファッションにもぴったり合うようなスタイルにアレンジしている。

 オーガニックコットンを使ったこだわり素材商品や、ラルフ・ローレンなどの有名ブランド、有名アーティストとのコラボ商品など、魅力的なラインアップを揃えている。今ではデパートの靴売り場として全米でトップのノードストローム(Nordstrom)の売れ筋に名を連ねる。

 もちろん、創業当時は「靴のことについて何も知識がなく、何もかもが手探り状態だった」という。「本職の靴デザイナーが見たら、縫い目が靴の前方にきているトムズのデザインは邪道と言われるだろう。でも、1足の代金で寄付する靴の分と会社を運営するための費用を捻出するために考えた、一番安く簡単に生産するためのデザイン。正直、それを理解してくれる人たちに受け入れてもらえればそれで十分」。こうした本来の靴のデザインからは未完成とも思われるデザインが、今では、「トムズらしさ」「トムズのオリジナリティ」として多くの人から支持されるようになっている。

*** 「買う」だけで社会貢献できる仕組みを消費者が評価 ***

 「最初の1~2年は友人・知人を頼って、みんなを拝み倒して靴を買ってもらっていた」という。そんな状況でも、くじけることもなく続けられたのは、アルゼンチンで出会った学校に行かれない子供たちのために何かしたいという強い思いと、「Shoes for tomorrow(明日のための靴)」という企業哲学が明確だったからだ。ちなみに、TOMSのブランド名は、<Tomorrow>から取った。

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 初年度の販売数はわずか1万足だったが、マイコスキーさんは「アメージングレースに出ていたイケメンのベンチャー経営者」としての知名度もフル活用して、トムズの目指すもの、企業哲学をひたすら語り続け、トムズの活動はみるみるうちに多くの人の注目を浴びるようになった。「靴を買う」だけで誰もが気軽に社会貢献をできる仕組みは、もともとボランティアに対する意識が高い米国社会で高く評価されたのだ。

 2007年にはスミソニアン協会のクーパー・ヒューイット国立デザイン博物館が贈る「People's Design Award」を受賞。2009年には国務長官賞も受賞した。

 トムズの靴は、当初はアルゼンチンのみで生産していたが、今では中国、エチオピアにも工場を作った。最近では、創業当初から販売しているアルパルガータの他、トレンドを意識したデザインやブーツなどのコレクションも取り扱う余裕が出てきた。またTシャツや帽子などにも手を広げ、社会貢献活動を拡充する収益基盤は一段と強まりつつある。

 トムズ・シューズでは、若き社会起業家の育成にも力を注いでいる。トムズの社会貢献活動やイベントでは、同社の活動に共感する高校生や大学生で組織する「トムズ・キャンパスクラブ(TOMS Campus Club)」に所属する学生がスタッフとして活躍している。キャンパスクラブの入会には審査があり、社会貢献活動に対する高い意識が求められるが、卒業する時には、活動内容を記した公式の「推薦状」を発行する。

 また徐々に世界的な運動として育ちつつあるのが、毎年1回実施している「ONE DAY WITHOUT SHOES」=靴を履かずに裸足で1日を過ごすというイベントだ。大学で、地域で、気の合った仲間でイベントへの参加をエントリーし、それぞれのやり方で靴を履かない1日を過ごす。靴のない生活の大変さ、そして靴のありがた味を体験することで、靴を履くことができない貧困地域に思いを馳せ、トムズの活動への理解を深めてもらおうというもの。今年は世界中で1600のイベントが企画され、25万人が参加した。2011年は4月5日に実施予定だ。

 現在TOMSは様々なNPOやNGOと協力し合い、アルゼンチンだけでなく、象皮病に苦しむ子供が多いエチオピアなど、25カ国で靴の寄付活動を行っている。しかも、1度靴を送っておしまいにするのではなく、履いている靴が履き潰れてしまったら、また新しい靴を渡せるように、継続的な支援を行っているのが特徴だ。

 2010年9月には100万足の寄付を達成し、大きな節目を迎えた。現在マイコスキーさんは、自身の考えや成功する社会起業家たちについてまとめた本を執筆している。たった4年間で世界中を巻き込んだポジティブムーブメントの立役者の今後の活動から目が離せない。
筆者:寺町 幸枝

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